2.何故白いボクサーが生まれるのか |
ここでは、スタンダードで除外対象としている白いボクサーが、何故生まれるのかということについての説明をしたいと思います。
白いボクサーはスタンダードから除外されていながらも、遺伝的に必ず出生するものなのです。
種々データによると、アメリカでは約25%、ドイツでは約10%の割合で白いボクサーが生まれています。
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①ボクサー作出の歴史的背景からも白いボクサーの出生は当然である |
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ミュールバウエルス・フロッキー |
ブランカv.アンゲルトーァ |
メタ
v.d. パッセージ |
ここに掲載した写真は、ボクサーが犬種として確率された頃の代表的なボクサー達です。
詳しくは、「ボクサーの歴史」のコーナーで説明していますので一度ご覧下さい。
左端のフロッキーは、ドイツボクサークラブの犬籍簿に登録された最初の犬、つまりボクサー第1号犬です。
ボクサーは作出段階でブレンバイザーという猟犬を母体にしており、これに白のイギリスブルドックを交配して生まれたのがこのフロッキーなのです。中央のブランカは、このフロッキーの同胎牝で、右のメタがその娘です。
メタは多くの名犬の母となり、その血は近親交配に多用され、現在のボクサーの全てがこの犬に辿り着くことは間違いなく、その後のボクサー界に大きな影響を及ぼした名犬です。
ご覧のように、初期のボクサーは白い犬達の血が沢山入っており、歴史的に見ても白いボクサーは何ら特種ではないことをご理解していただけると思います。
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②白いボクサーはメンデルの法則の下に生まれる |
ボクサーの毛色は、メンデルの法則の下に生まれてきます。
ここで、ボクサーの毛色に関する遺伝システムについて説明しましょう。
遺伝に優性、劣勢があるのをご存知だと思いますが、ボクサーの場合、縞が一番の優性遺伝で、次に茶、その次が白(斑)です。
ボクサーの遺伝形質は、全て以下のうちのいづれかに属します。
縞のボクサー |
a:縞の仔しか出さないボクサー
b:縞と茶の仔を出すボクサー
c:縞と白(斑)の仔を出すボクサー
d:縞と茶と白(斑)の仔を出すボクサー |
茶のボクサー |
e:縞と茶の仔を出すボクサー
f:縞と茶と白(斑)の仔を出すボクサー |
白(斑)のボクサー |
g:縞と茶と白(斑)の仔全てを出します |
以下に全てのパターンをシュミレーションしてみましょう。
①a×全てのボクサー=縞のみ
②b×全てのボクサー=縞と茶
③c×d=縞と白(斑)
④c×e=縞のみ
⑤c×f=縞と白(斑)
⑥c×g=縞と白(斑)
⑦d×d=縞と茶と白(斑)
⑧d×e=縞と茶
⑨d×f=縞と茶と白(斑)
⑩d×g=縞と茶と白(斑)
⑪e×e=茶のみ
⑫e×f=茶のみ
⑬e×g=茶のみ
⑭f×f=茶と白(斑)
⑮f×g=茶と白(斑)
⑯g×g=白(斑)のみ
ポイントは以下の通りです。
※1
aは、何を交配しても縞しか出さない。
※2 茶同士で縞が出る事はない。
※3 白(斑)を出さないボクサーがいる。(a.b.e)
※4 白(斑)同士だと、白(斑)しか出ない。
ここでも、白いボクサーは生まれるべくして生まれているということがご理解いただけると思います。
ただ、一つ指摘するとすれば、白いボクサーの出生を防ごうと思えば、遺伝的に可能だということです。
つまり、a.b.eのボクサーだけで繁殖し続ければ、そのうち白いボクサーはこの世から消え去ります。
しかし、これは現実的な方法ではありません。
なぜなら、牡も牝も、数回繁殖してはじめてその遺伝形質が明らかになるからです。それだけでなく、白い仔犬を出さないボクサーの数は全体的はそんなに多くなく、その中で更に種牡や台牝としての優秀な要素がある犬達をチョイスするのは不可能に近いからです。
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③人の嗜好も影響を及ぼす |
ボクサーにはドイツ系とアメリカ系があります。
詳細は「ボクサーのタイプ」のコーナーで説明していますので是非ご覧下さい。
ドイツ系とアメリカ系には様々な相違点がありますが、かつては、毛色、特にマーキングの嗜好についての違いが見られました。
特にドッグショーにおいて顕著で、原産国ドイツをはじめとするヨーロッパ各国(イギリスを除く)では、スタンダード範囲内であれば、ボクサーの毛色自体をその審査対象とはしていませんが、アメリカ、イギリス、日本(JKC)などでは白いマーキングが、ボクサーを美しく見せる一つの重要な要素だと位置付けられており、このことはABC(アメリカボクサークラブ)のスタンダードでも言及しています。
しかし、ここ10年ほどの間に、その傾向が次第に崩れつつあります。
既にアメリカでは、マーキングのないボクサーがタイトルを獲得し、種犬として使われていますし、JKCでも少しづつですが、マーキングの無い優良なボクサーが上位入賞しはじめています。
これらの動きは、ボクサーの本質を見て、この犬種の発展に寄与しようと真剣に考える人たちがいるからこそです。
そういう情況のなかで、ドッグショーを目指す人だけでなく、一般の愛犬家も又、白いマーキングを好む傾向があります。
事実、私のHPに掲載した仔犬の写真をご覧になって問い合わせをいただく場合でも、圧倒的にマーキングのある仔犬達に人気が集中します。ある意味では、特に初めてボクサーを飼う人にとっては他の仔犬との差別化が、毛色でしかできないということもあるのでしょう。
しかし、これを機会に皆さんにご理解いただきたいと思います。毛色は、ボクサーの良悪しに関係ありません。
かく言う私自身も、やはりマーキングの少し入っているくらいの方が好きでした。いや、今もどちらかと言えば好きです。しかし、それは最初に仔犬を飼う時の願望であって、飼ってしまえばすぐに慣れてしまうのです。どんな毛色の仔犬でも、そのうち可愛くて仕方なくなるものです。
毛色だけでボクサーを判断するのは危険です。性格等、ボクサーにはもっと重要な要素があることを知っておいてください。
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マーキングの殆ど無いボクサーとマーキングの有るボクサー
いづれもヨーロッパNo1のタイトルを獲得したボクサーです
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これらの嗜好によって、これまで私は直接白いボクサーの出生率についてまでは影響していないと思っていました。
しかし、どうやらこうした嗜好でも白いボクサーの出生率に違いが出てきているようなのです。
ボクサーファンなら知ってる人も多い「BoxerWorld」の中に「WhiteBoxer」というコーナーがあり、そこでの白いボクサーの出生率は25%となっています。これはアメリカでの統計のようです。
そこで私はドイツボクサークラブでの白いボクサーの出生率を確認してみました。
過去12年間は以下のようなデータです。
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
11.1% |
9.1% |
9.6% |
10.4% |
10.3% |
8.6% |
8.8% |
8.1% |
8.0% |
8.4% |
9.5% |
8.4% |
ここでわかることは、アメリカとドイツの白いボクサーの出生率の著しい差です。
何故同じボクサーなのにここまでの差ができるのでしょうか。
私の知っている範囲で思いあたるのが、ドイツボクサークラブの厳しい繁殖制度です。
まず、上記のデータですが、このようなデータを収集・蓄積・公開し、繁殖者のために提供しています。
そのデータの中身は私達日本人の意識からは圧巻の内容で、下記の項目毎に統計をとっています。
・牡/牝の割合 ・帝王切開の割合 ・生後7日までに死亡の割合
・三口の割合 ・白/斑の割合 ・片睾丸の割合
つまり、これだけの項目毎に繁殖制限を行っています。
帝王切開が続いた牝、三口や白、片睾丸を多く出した犬達は、種犬認定を剥奪され、繁殖停止を言い渡されます。
こうしたデータは、毎月の会報に種犬毎に公開され、規定の割合を超えた牡、牝については繁殖禁止として掲載されます。
ですから、繁殖者は一目でどの種牡が、どんな割合でどんな仔犬を出しているのかが確認でき、自分の繁殖の参考にできるわけです。
また、種牡の所有者も会報の広告等で「うちのボクサーは白い子を出しません」などと宣伝したりします。
一方で、日本を含む多くの国々ではこうした具体的な施策を打ち出してはいません。
つまり全くの野放し状態で、こうしたことに気を遣って繁殖したい人が参考にすべきデータも何も無いというのが現状です。
その上、審ドッグショー等で白いマーキングのあるボクサーの方が有利になったり、白いマーキングのあるボクサーの方が一般的に好まれ、高く売れたりするので、尚更派手なボクサーが好まれてきたわけです。
こうした私達の嗜好が、白いボクサーを増やしているとも言えます。
因みに、私の知る限りでは、白い仔犬を出さないボクサーは、総じて殆ど白いマーキングがありません。
又、派手なマーキングを持つボクサーの殆どが、白い遺伝子を持っています。
この項で私が申し上げたいしたいことが、2つあります。
一つは、前述で明らかなように、毛色に拘らないことによって、こうした除外犬を減らす事ができるのです。JKCやPDなど、国内でも正しい繁殖データを収集し、公開する義務があるのではないかと思うのです。一朝一夕ではどうにもならないことですが、こうした施策が大切なのではないでしょうか。
もう一つは、貴方がボクサーを飼う場合、ことさら毛色のみに拘らないでいただきたいことです。
個人の趣味、希望、それはそれで良いと思いますし、そういう仔犬がいれば誰でもそれを選ぶと思います。私だって同じです。しかし、これまで私が仔犬を紹介してきた経験からも、毛色にのみ拘る人があまりにも多いのです。
ボクサーで大切なものは、いや、ファミリードッグとして大切なものは、何よりも健康と稟性(=性格、性質)であることは、言うまでもありません。
私は、マーキング入りのボクサーが15万円で、同じ兄弟なのにマーキングが無いボクサーが3万円だった広告を見た時、大変驚いたとともに、とてもショックを感じました。
ABCやJKCのDogshowでは、過去では多少なりとも毛色で差別化されてきたので、商品としてのボクサーとして見た場合、やはり値段に差が有るのは仕方ないことなのかもしれません。この理屈は私にも理解できます。
しかし、5倍もの差が付くものではないはずなのです。あるいは、毛色以外の部分は、3万円の仔犬の方がずっと良いかもしれないのです。
私はここで値段を付けた繁殖者を非難しているのではありません。きっと、その値段を付けざるを得ない理由があるはずなのです。
それはつまり、仔犬を求める私達の要求なのです。
この現実を、もう一度よく考えていただければ幸いです。 |