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どんな犬種でも純潔種である限りは、その犬種の理想像である基準(スタンダード)が規定されています。
当然ボクサーにもスタンダードがあり、このスタンダードを目標に、多くのボクサー愛好家が繁殖の歴史を積み上げて今日に至っています。
ボクサーのスタンダードは、1905年、原産国であるドイツで制定され、以降数回の修正の後、1938年に改正されたものが現在のものです。
スタンダードは一般的に文章で書かれ、多少の図解はあるものの、各々の解釈に違いが生じたりしてこれを理解するのは難しいことです。そこで確認しておきたいのが、いくら「基準」とはいえ、ボクサーは品物ではなく生物であり、内面的なものを含めてすべて固定的に定められるものではなく、かなり柔軟性をもったものとして理解されるべきであるということです。例えば、他の犬に比べて、ボクサーのタイプにはかなり個体差があり、これが認められねばならないということです。この点を理解した上で繁殖活動を行わないと、大きな過ちを起こしてしまう事にもなりかねません。
従って、スタンダードをより正しく理解するためには、スタンダードの「精神」というべきものを正しく理解しておく必要があります。
これは、例えば「日本国憲法」を理解しようとする時、その「精神」である「民主主義」について理解していないと、正しく理解できないことと同じです。
ボクサーのスタンダードの精神、それは何といってもボクサーが使役犬、作業犬であるという大原則です。この精神を踏み外しては、理想的なボクサーの作出は不可能であるといえるでしょう。
それでは、以下、ボクサーのスタンダードについて解説します。
一般外貌
ボクサーは、中型の毛のなめらかな、逞しい犬種で、短四角形状で、力強い四肢を持つ。筋肉組織は全く隆々として力強く発達し、柔軟性に富み、皮膚をとおして窺い知れる。その動作はきわめて活気に溢れ、歩様は着実、かつ軽快で足並みは自由、かつ広くその態度は堂々として高貴です。
人や財産を守る犬として、ボクサーは力に満ち、一定の実質を備えていなければならず、馬と並んで、自転車や車のように耐久力のあ随伴犬並びに優秀な跳躍犬(スプリンター)として、優雅さをそなえていなければなりません。
これらの要求に応じる事のできるのは、各肢が最高の性能を発揮できるような構造を持ち、全体に対して美しい調和を保って結合しているような体躯です。それ故にボクサーは高度に発達した力を持つ一方、鈍重でも重々しくあってもいけません。全力疾走の時は不安定であってはなりません。
頭部はボクサーだけが持つ、固有の特徴を備えています。頭部は胴体に対して、絶対に良い割合を持っていなければならず、とりわけ軽すぎてはなりません。ボクサー特有の特徴はその鼻口部で、その最も正しい形態と頭蓋に対する正しい大きさの比率に最も重点が置かれる一方、体躯も重要で、それゆえに、ボクサーの審査の際には、まず第一にその全体の姿が考慮に入れられなければならず、すなわち、その実質と優美さや、身体の各部分が互いに望ましい比率を保っているかが大切なのです。
この際、体毛が魅力的であるかどうかにも注意を払わなければなりません。
続いて、各部分が正しい構造をしているかどうか、その機能はどうであるかが吟味されなければなりません。
<欠点>
鈍重なもの、ブルドッグ型のもの、骨量に欠けるもの、均整(比率)に欠陥があるもの、体調(コンディション)の悪いもの、気高さに欠けるもの。
頭部の割合
バランスの良いボクサー
頭 部
頭部の美しさは、鼻口部と頭頂部の大きさの割合が、調和がよくとれているか否かにかかっています。上から前から、または側面にせよ、どのような方向から頭部を眺めるにせよ、鼻口部はたえず頭頂部と正しい割合を保っていなければなりません。すなわち、決して小さすぎるように見えてはならないのです。
ですから、皺も垂唇が垂れ下がりすぎることや、喉袋のゆるみすぎがあってはなりません。頭頂部と耳の個所にある皺は自然のものです。
理想に近い顔頭部
垂唇の垂れ下がり過ぎ。目色も淡く、額の
皺も多い。
鼻根から下へ、面側にかすかに走っている黒いマスクは、絶対に鼻口部だけに限られており、又顔つきが陰険にならないように、頭部の毛色からはっきりと区別できなければなりません。
鼻口部は、立体的に力強く発育しているべきで、すなわち、尖っても、また、細長くても短くても、又は低くてもいけません。その形状は第一に両顎の形によって、第二に両顎の歯の位置によって、第三に垂唇の状態によって影響を受けます。
両顎は、前方で垂直平面で終わっているのではなく、下顎が上顎より突き出て、軽く上へ曲がっています(ボクサーは正常な場合、前面噛合である)。上顎は幅広く、頭頂部に付着しており、幅広くほんの僅かに先細りになりながら前方へ走っています。それ故に、両顎の前面は非常に幅広く、犬歯は互いに出きる限り離れており、門歯(切歯)は一列をなしていますが、中央部のものは飛び出てはおらず、上顎の側面は前方へ軽く弓状に反り、下顎では一直線をなしています。歯列は力強くかつ健康で、歯は出きる限り規則正しく一列横隊に並んでいます。
頭部に比べ、口吻が小さく
幅も狭い。ストップ不明確。
下顎の突き出し過ぎで、歯が見
えている
垂唇は、鼻口部の形状を仕上げるものです。上唇は厚くかつ丸く膨らんでおり、下顎の突出によって形作られた空隙(隙間)を満たします。が、この時に下顎の犬歯によって支えられます。このようなわけで、犬歯はできるだけ互いに離れ、また、適度の長さがなければならないのです。こうしてはじめて鼻口部の前平面が幅広く、かつ殆ど四角形状になり、鼻梁と鈍角を形作るのです。
上唇の下のへりは、下唇のへりの上に乗っています。私達が顎と呼んでいる下唇を含めた下顎の上へ反った部分は、上顎より前へ強く突き出しすぎても、また、出かたが少なすぎて上顎の下に隠れていてもいけなく、ブルドッグのように前に突き出たり、上へ反りかえることなしに屈曲していなければなりません。前から見ても、側面から見ても、良くはっきりと見えなければなりません。
下顎の歯は口を閉じている時に見えてはなりません。
噛み合わせ
下顎の巻きこみに欠ける
頭部に対し、鼻口部が長い
ストップも低く角度不足
理想に近い口吻、鼻口部
気品に満ちた表現
側面から見た場合、鼻口部の前面の線は完全な直線ではなく、まず鼻部の前平面で垂直に下へ走り、続いて美しい弓形を描いて斜め前方に向きを変え、鋭い角に中断されることもなく顎の丸みに続き、その結果、鼻梁と殆ど平行に背後へと向きを変えています。それ故、上の垂唇は下へ向かって走っているうちに、ほんの少し顎によく密着していて、だらりと垂れかかる事も無く、また、深く垂れ下がった口角(口元)を形作ることもありません。下顎の下の方へ向かう部分の皮膜は乾燥していて、頚部の皮膜へと移行しています。
頭頂部は軽く湾曲していますが、円型のように短くも、また、平らでも幅広すぎる事も無く、後頭部は高すぎず、額は鼻梁と共に、線のはっきりとしたストップを形作っています。鼻梁は、ブルドッグのように額にめり込んでいたりしてはならず、また、ガクリと下へ落下していてもいけません。鼻梁は軽く傾斜しています。すなわち、鼻の先端は鼻根よりも幾分高く位置しています。しかし、これは特に両目の間では深すぎてはなりません。頬は力強い歯列に対応して、やはり力強く発達していますが、「できもの」のように頭部から突き出ることはなく、むしろ軽い湾曲を見せて口吻部に移行しています。
鼻梁の下がった犬
鼻口部も細く尖っている
微妙に上に傾斜している
理想に近い鼻梁
短すぎる鼻口部
適度な長さの鼻口部
耳の付きは高く、断耳されているものはピンと尖り、程よい長さを保ちます。耳殻は幅広すぎもせず、垂直です。断耳されていないものは、緊張時には前面に折れ、大きいよりは小さ目のほうが好ましい。
暗褐色の目は、まん丸でもなく、小さすぎたり、または窪んでいることもありません。目は情熱(エネルギー)と知性を現しています。しかし、陰険に威嚇するように、または刺すように鋭く見えてはいけません。目は黒く縁どられていなければいけません。
目色の淡い犬。ストップの傾斜も角度
不足で、顔部のブラックマスクも配分
が悪く、ボクサーらしい表現に欠ける
正しいブラックマスク
理想に近い牝の表現
鼻孔は広く、両方の鼻孔の間に溝があり、上唇が溝に続いています。
鼻口部の頭頂部に対する調和のとれた比率を大雑把に表現すれば、鼻梁の長さ(鼻頭からまなじりの内側まで)は、全顔長(鼻頭から後頭部の骨まで)に対して2:1の比率にあります。
基底部における鼻口部の深さは、その長さよりも多くなければならず、それに応じて鼻口前部の長さは、鼻梁の長さと同じ高さを持ち(L/3)、頭部の頬骨を横切る横断直径(B)は、鼻口部の基底部のところの幅に対して3:2の比率にあります。それ故に鼻口部の幅は2/3Bです。
<欠点>
表情と高貴さに欠けるもの、陰険な顔付き、病気と欠点のある歯列に起因する不適切な歯列、ピンシャー型、ブルドッグ型の頭部、よだれを垂らすもの、断耳のまずい耳、眼球結膜の見えるもの、淡い禽獣眼、垂下鼻梁、尖りすぎる頬、淡紅色の鼻。
頭部のタイプ
歯列。左ほど良い。
目色評価(種犬認定試験合格は3bまで)
1a・・・極く黒の濃い茶色
1b・・・濃い煙のような茶色
2a・・・赤茶色
2b・・・煙のような茶色
3a・・・栗茶色
3b・・・はしばみの実の茶色
ボクサーの全体的バランス
頚 部
丸く、短すぎも厚すぎもせず、十分な長さがあり、しかも力強く、筋肉は逞しい。そして、喉袋は無く、どこを見ても乾燥しています。線のくっきりとしたうなじの隆起伴い、優美な曲線を描いて背部にまで走っています。
<欠点>
牡牛のように太く頑丈な首、喉袋、皮膚のたるみ。
重く短い頚部
力強く優美な頚部
体躯構成
体躯は正方形状です。
すなわち、背中の上部の垂平線と、肩関節先端部と座骨隆起をおのおの接する垂直線2本とが、地面の線と共に正方形を形作ります。
躯幹は、力強い骨を持つ、逞しい脚部を土台としています。
体高に比べ、体長が長すぎる牡
キ甲も低く、頭部もやや小さい
理想に近い牡の全体像
正しいトップライン
胸部と前肢
肘の外側から測った胸部の幅は、肘から地面までの前肢の長さ(h)に対して2:3の比率にあります。(故に胸の幅は2/3h)。胸部の幅は、頭部の幅をそれとわかるほどに超えるものであってはいけない。胸は深く、肘までに達し、胸深は犬の全体高(H)の半分(H/2)にあたります。
浅過ぎる胸深
理想に近い胸深
広すぎる胸幅
理想に近い胸幅
肋骨はよく湾曲していますが、樽状に丸くはなく、ずっと背後にまで達しています。横腹は短く引き締まって張っており、軽く巻きあがっています腹部の下線は優美な曲線を描いて後へ走っています。肩は長く、また傾斜しており、その付き方はしっかりとしています。なお、あまり厚い筋肉で覆われてはいません。
上腕は長く直角(45%)で、できるだけ肩甲骨に正しい角度で結合しています。前二肢は、前から見た場合真っ直ぐで、互いに平行であり、強い結合のしっかりした骨を持っていなければなりません。肘は胸壁に強く付きすぎても、また、離れてもいけません。前腕は垂直で長く、筋肉は力強く張っています。
手根部は小さく、引き締まって湾曲した指部を持ち、足裏は固い。
<欠点>
幅の広すぎ、低すぎる前部、ゆるい肩、方の間にぶら下がったような胸、兎のような指部、窪んだ横腹、垂れ腹、ねじれた脚部と指。
角度不足の肩・上腕
正しい肩・上腕
角度不足の肩・上腕
理想的な肩・上腕
外側に開いた肘
正しい肘
背 部
キ甲部は、はっきりと見えなくてはなりません。背部全体は短く、真っ直ぐで幅広く、力強く筋肉で覆われています。
<欠点>
鯉背、落ち込んだ肩、やせた背中、幅広く長くガクンと沈んだ腰部、臀部と結びつきの弱いもの。
背が丸く、腰部と臀部の結合部が弱い
強靭な、理想に近い背腰部
後 肢
後肢は非常に強く筋肉で覆われています。筋肉組織は板のように堅く、非常に柔軟性に富み、皮膚を通して現れています。大腿部は、幅狭く平らではなく、幅広く、また湾曲しています。下腿部の筋肉は同様に強く発達しています。
臀部は軽く傾斜し、ゆるやかな湾曲をみせて幅広い。
尾の基底部は低いというよりはむしろ高く、尾は断尾されて斜め上方に伸びています。骨盤は垂平線に対しておよそ35度の角度を成し、骨盤は長く、また特に牝の場合は幅広くなけれなばりません。大腿並びに下腿は長く、股関節と膝関節は出来るだけ鈍くない方が良い(膝は基本姿勢で、出来るだけ前方により、股隆起から地面まで引かれた垂平と接しています)。
足関節(飛節)の角度はおよそ140度で、短い中足部は地面に対して95度~100度のわずかな傾斜を見せており、それ故に、完全な垂直ではない。後方から見た場合、後脚は真っ直ぐでなければならず、下へいっていくらか平行に近くなる。
足関節(飛節)は乾燥しており、膨らんではいけません。踵骨は力強い(踵骨は大抵指骨よりも少し長く、その他の点では同様です)。
<欠点>
斜尻、または湾曲し過ぎたり、幅狭い臀部、尾の基底部の低いもの、でっちり、急傾斜で不自然な角度の少なすぎる後肢、後肢が間が抜けていること、X字脚、O字脚、踵が狭いもの、上爪、飛節の弱いもの、不安定なひょろつく歩様、兎のような指部、後踏み。
角度不足の後肢
理想に近い力強い後肢
左から、X脚、O脚、正常な後肢
欠点のある後肢は、いずれも歩様に悪い影響を及ぼす
左から、広すぎる歩間、不規則な歩間、正しい歩間
左右の着地点が同一線上にあるのが理想的
肘が甘く開いていると、中央のような歩間になる
左は理想的な歩様、右は非効率的な歩様。
左は一動作で110cmの歩行距離に対して、右では103cm。
前肢肩甲骨や上腕骨の角度が浅い犬にありがちな、非効率的な歩様。
左は理想的な歩様、右は非効率的な歩様。
左は一動作で110cmの歩行距離に対し、右は80cm。
後肢の角度不足、あるいは背腰部の欠陥により、後肢の踏みこみが浅い犬に多く見られる歩様。
体高・体重
<体高>
牡=57~63cm
牝=53~59cm
<体重>
牡=体高60cmなら30kg以上
牝=体高56cmなら25kg以上
被 毛
短く、光沢があり、堅く付着しています。
毛 色
もともとの色はファウンとブリンドルです。ファウンには暗い鹿毛色から明るいものまでの色調がありますが、その中間段階の色(赤黄色)が最も美しいといえます。
マスクは単色犬にとって欠くことのできないもので、その色は黒味をかすかに帯びているものから、真っ黒なものまでありますが、顔が陰険に、また不愉快なものにならないために、鼻口部だけに限られていなければなりません。
ブリンドルの変化には、先に述べた段階のファウンを基調色として、暗いまたは黒い縞が肋骨の方向に向かってあります。基調色と縞は互いにはっきりと区別がつかないといけません。縞は接近しすぎても、まばらでもいけませんし、地色は汚らしくてはいけません。また両方とも混然と不明瞭に縞のリンクがぼけて、互いに不鮮明に交じり合ってもいけません。
ホワイトマーキングは許されます。しかし、白色が1/3以内でなければなりません。
以下は、種犬認定試験に採用している毛色です。
フォーン
ブリンドル
赤茶=Braunrot
赤鹿色=Hirschrot
赤黄色=Rotgelb
金黄色=Goldgelb
明黄色=Hellgelb
濃縞=Dunkelgestromt
濃金色縞=Dunkelgoldgestromt
赤金色縞=Rotgoldgestromt
金色縞=Goldgestromt
明金色縞=Hellgoldgestromt
銀色縞=Silbergestromt
稟 性
ボクサーの稟性は、何にも増して最も重要なものであり、特に入念な配慮を必要とします。ボクサーは自分の主人並びに家族全体に対する愛情と忠誠、その警戒性、防犯犬としての恐れを知らぬ勇気は昔から知られています。ボクサーは、家庭内では純真無害ですが、見知らぬものに対しては信を置かず、又戯れているときには陽気で親しげですが、ひとたび真面目になると、その気性は恐ろしいほど勇気があります。
その知性と従順さ、その謙虚さと清潔さは、ボクサーを快適な家庭犬に、また楽しい随伴犬にし、生まれつきの鋭敏さ及びその嗅覚敏感性のために容易に訓練できます。
その性格は正直で、悪意や狡猾さは全く無く、これは歳をとっても変わりません。
<欠点>
悪い性質、狡猾なもの、信用のおけないもの、素質に欠けるもの、臆病なもの。
ボクサーの骨格図
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